「坂道にて」に寄せて
偶然にも「うたごえ」のみなさんの活動を小さな頃から見聞きして育ちました。父・井上頼豊他界後、遺品のびっしりと書き込まれた議事録やノートの数に驚いた記憶も鮮明です。75周年という節目に長男が曲を作るとは、生前の父も想像していなかったでしょう。
何が作れるのだろうかと自問していた時、何故か「坂道」のイメージが浮かびました。山を越える、海辺や河辺に下りる、斜面を歩くことのない人間は居ません。丘や山の上から街や平野を俯瞰したことの無いひとも少ないでしょう。歴史や苦難の象徴でもある「坂道」は、今まさに人類全体が核の恐怖、ウイルスとの対峙、文明の自己破壊の中で苦悶している事を表している様に思えました。
この3つの坂道は戦争を精密なものに育て上げて来た歴史の最終章に核の存在を据えた、そんな景色につながっています。音楽的には「ふつうのうた」になりました。ひとりで歌うのも4部合唱で表現していただくのも、どちらも歓迎いたします。