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池辺晋一郎「スタートライン」
『空が青いから白を選んだのです 奈良少年刑務所詩集』
詩:受刑者 編:寮美千子 新潮文庫より
ゆめ・夢と希望と挫折
作詩:受刑者

 「日本のうたごえ」75周年……祝意とともに、深い感慨を抱きます。出発は、終戦から2年の年。
僕は4歳で、あのころの荒廃をうっすらと記憶しています。
家の近くに、元高校(今で言えば大学)の講堂跡には、無惨に壊れたグランドピアノが放置され、床(だったところ)にはガラスの破片が散らばり、ペンペン草が生い茂っていました。
歌声は、聞こえなかった....。
でも、実は歌っていたのですね。きっと、小さいけれど力強い声で。

それが、スタートラインだったのです。
寮美千子さんが編纂した奈良少年刑務所詩集「空が青いから白をえらんだのです」を読み、どんな人のどんな状況にも詩があり、歌があることを再確認しました。
「ゆめ」という詩は、たった1行。
でも、これを書いたFくんは、書けなかった自分の夢を話してくれたそうです。
僕は、この1行に、「夢と希望と挫折」という12行の詩をつなぎました。
「大切なのは 希望も挫折も受け入れること それこそが生きる意味 それこそがぼくのスタートライン」と結ばれる詩です。

そのとおりではありませんか!

【音源】2022年4月10日シンポジウムにて
ピアノ 中瀬千央
演奏 東京のうたごえ